フィカス ベンガレンシス
初めて60cmほどの鉢を買ったときのこと。
大きな重いCIBONEの紙袋を持って一人暮らしの部屋に着くと、さっそく取り出して出窓に置いてみた。私の所有する空間に、自分以外の生き物がいるのが不思議な気分。小さめの鉢を置いた時は気にならなかったのに、60cmの木となると意外と存在感がある。インテリアやオブジェとしての魅力を感じて観葉植物を買い始めたけど、やっぱり生き物なんだ。と、知ってはいたけど分かっていなかった事実を体感する。
置き場所が決まって、PC作業にとりかかった。…が、なんか気になって落ち着かない。背後から見られている視線のような、静まり返った部屋で他人の呼吸を感じるような、そわそわした居心地の悪さがあった。この木のことはとても気に入って買ってきたのに、鉢のセンスもばっちりなのに、何が原因なんだろう。そう思って作業の手を止め、木と向き合ってみる。じっと見つめる。鉢の向きを回転させて変えてみる。そしてまた眺める。
しばらく眺めたり回したりしているうちに、あることに気づいた。なんか嫌だ、と思う枝が1本あるのだ。あの枝のせいでバランスを崩してる。なんか飛び出して見えてくる。
観葉植物初心者のくせに買ったばっかりの木にメスを入れるのは気が引けたけど、オタク気質を発揮して、購入前にすでにひととおりの観葉植物育成法は叩き込んである。剪定をしても大丈夫なはずだ。問題は、剪定して気に入った樹形にできるかどうか。
美大受験で培ったデッサン力を信じて、ここだと思った枝にハサミを入れる。離れて眺める。前の枝がなくなったことで別のもう一箇所が気になりだしたので、そちらも少し切った。なんだか散髪をしてるみたい。360°全体をくるくる回しながら、慎重に切る枝と切る長さを決める。
葉の量が減ってすっきりした木の姿はちょっと寂しくなっちゃった気もするけど、なんとなく納得感があり、満足して作業に戻る。
もう、部屋に何か別の生き物がいるという息苦しさは感じなくなっていた。剪定という介入をしたことで、あの木の中に私の要素が入り込み、私の一部にできたような気がした。そういう物とのコミュニケーションもあるのか。と思った。
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