初めてアート購入を検討した話|後編

金銭感覚と、決心

5万円と6万円の作品で悩んでいたけど、「これも素敵だった、高いけど」と見せた10万円の作品の写真を見て、彼女は「むしろそっちを買った方がいい」と背中を押してくれた。
今までで一番高い買い物・27インチのiMacよりは安いが、2番目に高価なドラム式洗濯機よりは高い金額だ。

家電が買える金額を、手におさまるサイズの「使い道のない」立方体に支払う事象にクラクラしつつ、でも確かに、決められなかったのは、値段と作品の魅力との釣り合いが取れなかったからではないかと思いはじめる。
5、6万円の作品は魅力に対して「ちょっと高い」と感じたということだ。あくまで私の価値観で。

10万円を使うことに抵抗はあるが、あの大作が10万円だという事実自体は安く感じる。
10万円の作品は、最初に画像を見つけて衝撃を受け、すべてのきっかけとなったあの作品だ。

「買うかどうか」も思考の俎上に載せておいたはずなのだけど、その金額を払う決心を付けられなかったために残されていただけで、心の底から湧き出る「欲しい」という純粋な感情に身を任せても良いのではないかと思うに至った。

深夜まで悩み抜いて決心を固め、翌日、ギャラリーに電話した。
これが、私の初めての(飾る以外に用途のない)アート作品の購入になった。

 

 

アートのある暮らし

熱が出そうなほど真剣に悩んだ甲斐あってか、このアートを買ったことの後悔はまったくなく、清々しい気持ちだった。
このアートを見た友達からは「ペンちゃんが作りそうな作品」と言われる。人から見ても、私の好みにばっちりはまっているということだ。

空間に溶け込むアクリル無垢に、はっとするような激しいヒビ。香水瓶をアクリルに封入するとき、瓶が割れて中の香水が漏れ、アクリルと反応を起こして割れができるそうだ。偶然の形だから、作者もどんな形になるかはわからない。
ヒビの断面が光に当たると、キラキラと乱反射を起こす。

家にアートがあると、目に入るたびになんとなく元気になれるというか、パワーをもらえるような気がしている。
それはアートに限らず、好きなもの、視界に入って気持ちの良いものと暮らしていることで生まれる力だと信じている。
だから、ものにこだわりたい。

アートピースはつまり、「見たときに自分の心に良い作用が働く装置」が純粋に具現化したものと言える。そう考えると、確かに他人の意見は気にしなくていい。
アートピースを買うというのは、気分の良い生活を買うということではないかと、今は思っている。

 

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